公式Instagram 公式Instagram
TOPへ

ブログ

【医師監修】自律神経と痛みの関係|慢性疼痛の軽減方法とは

クライシス・ペイン

自律神経と痛みの関係|慢性疼痛の軽減方法とは

執筆者 作業療法士 丹野愛

監修者 整形外科医 森裕展

自律神経は痛みの増強や緩和に深く関わっています。交感神経の過活動は痛みを悪化させる一方で、副交感神経の活性化は痛みの軽減につながります。自律神経の視点から痛みを軽減する方法と慢性的な痛みに対するアプローチについて詳しく解説します。

痛みの分類とメカニズム

国際疼痛学会(International Association for the Study of Pain:IASP)によると、痛みは「組織損傷に関連する痛み、もしくは組織損傷に関連する痛みに似た不快な感覚であり情動体験である」と定義されています。1)

痛みは侵害受容器を介するかしないかによって、侵害受容性疼痛神経障害性疼痛に大きく分類されます。さらに、痛覚変調性疼痛(心理社会的疼痛、心因性疼痛)という分類が加わります。1),2)、3)

侵害受容性疼痛

侵害受容性痛は、痛みを引き起こす刺激を受け取る侵害受容器を介して感じる痛みです。
侵害受容器には以下のものがあります。

・熱刺激: 熱いものを痛みとして感じる。(閾値は42度以上)
・機械刺激:つねるなどの圧力による痛み。
・化学刺激:ブラジキニンやヒスタミンなどの化学物質が引き起こす痛み。
2)

また、炎症性痛も侵害受容性痛に含まれます。炎症性痛は、炎症反応によって発生する痛みで、腫れや熱感、赤みとともに現れるのが特徴です。たとえば関節炎などが挙げられます。炎症によって放出された化学物質が侵害受容器を刺激して感じる痛みです。2)

神経障害性疼痛

神経障害性疼痛は、体性感覚神経系の障害や病気によって引き起こされる神経の損傷による痛みです。「触れるだけで痛い」「電気が走るように痛い」「焼けつくように痛い」など、幻肢痛や帯状疱疹後の神経痛などが挙げられます。2)

痛覚変調性疼痛

痛覚変調性疼痛は、以前は心理社会的疼痛(心因性疼痛)と呼ばれていた痛みです。侵害受容性疼痛や神経障害性疼痛の定義に当てはまらない痛みで、線維筋痛症、過敏性腸症候群、複合性局所疼痛症候群(CRPSⅠ型)、非特異的慢性腰痛などが含まれます。3)

明かな組織や神経の損傷がないのに痛みが出るのは、神経の働きが過剰反応を起こしたり、痛みを抑える仕組みが低下したりして痛みを過敏に感じるようになるためです。侵害受容性疼痛と痛覚変調性疼痛が共存する場合もあります。3)

自律神経と痛みの関係

自律神経は痛みの認知や調節に関わる「痛み関連脳領域(ペインマトリックス)」と相互に作用し、交感神経の過活動や副交感神経の活動低下が慢性的な痛みを増強する要因になるといわれています。4)

交感神経の働きは「戦闘・逃走」状態に入ることです。組織が傷つくことで過敏に反応し、小さな刺激でも強い痛みを感じやすくなります。さらに、痛みによって交感神経の活動が高まり、痛みを増強させる「痛みの悪循環」へとつながります。

一方、副交感神経の働きは「休息・消化」を促すことです。副交感神経の活性化はストレスを軽減してリラックス状態に導き、痛みを緩和しやすくなります。

交感神経の活性化による痛みの増強

交感神経が過剰に活性化すると体内では次のような変化が起こり、痛みが増強されることがあります。

筋肉の緊張増加

交感神経の過活動による筋肉の持続的な緊張状態の継続と血流の低下が筋硬結の発生に関与し、関連痛が起こると考えられています。5)

血流の低下

血管が収縮して血流が阻害されると発痛物質が蓄積し、侵害受容器が刺激されることで痛みが増強されます。6)

ストレスホルモンの分泌促進

ストレスホルモンであるカテコールアミン(アドレナリンやノルアドレナリン)の分泌により、感覚神経が過敏になって通常は痛みと感じないような弱い刺激でも痛みを感じやすくなります。またコルチゾールは短期的には炎症を抑えますが、慢性的な分泌が続くと中枢神経系を感作させ、痛みをさらに増強させるリスクがあります。7),8)

副交感神経の活性化による痛みの軽減

副交感神経の活動が活発になると、体はリラックス状態になり、痛みの軽減に働く場合があります。

筋肉の緊張緩和

筋肉の緊張が緩和されることで緊張による痛みが軽減します。4)

血流の改善

血管が拡張することで血流が改善し、発痛物質の排出が促されて痛みが緩和されます。4)

ストレスホルモンの分泌低下

カテコールアミンやコルチゾールなどのストレスホルモンが減少し、痛みへの感受性が低下することで痛みを感じにくくなります4)

自律神経の働きと痛みの軽減

交感神経の過剰な活動と副交感神経の活動低下が痛みの増強に関わっています。そのため、副交感神経の活動を促す取り組みにより、痛みの軽減が期待できます。リラクセーション法は緊張を緩和し、痛みの閾値を上げて痛みに反応しにくくなるとされるケア方法です。リラクセーション法は複数ありますが、今回は日常に取り入れやすい漸進的筋弛緩法と横隔膜呼吸法についてお伝えします。9)

漸進的筋弛緩法

全身の筋肉を弛緩させるための方法です。簡単な方法としていくつかの筋肉を同時に緊張させて弛緩させるという方法が活用されています。6~7割の力で10秒間力を入れてから10秒間力を抜く動作を2回繰り返します。

① 手を握って肘を曲げる・伸ばす
② 左右の肩甲骨を背骨方向に近づける・離す
③ 両肩を耳に近づけるように上げる・下ろす
④ 両目を閉じて目や口を中心に近づけるように力を入れる・緩める
⑤ 両膝の間に入れたこぶしを挟むように力を入れる・緩める
⑥ 両膝の外側に手のひらを当てて膝を開くように力を入れる・力を抜く
10)

横隔膜呼吸法

みぞおちの下(へその上)の横隔膜を意識して行う深呼吸です。みぞおちの下に手を当てて息を吸ったときに膨らむように鼻で息を吸い、ゆっくりと息を吐きだします。椅子に腰かけるときは骨盤を起こした姿勢で座りましょう。ゆっくりと1日10~20回行います。10)

そのほかのリラクセーション方法

ヨガ、マインドフルネス、瞑想、太極拳、気功、ストレッチなどもリラクセ―ション法として知られています。9),10)

有酸素運動も副交感神経の活動を促す方法のひとつです。

自律神経を整える有酸素運動:https://www.moriseikei.or.jp/blog/jiritsushinkei_unndoubusoku/

慢性疼痛(治らない痛み)の軽減方法

自律神経は痛みの増強・緩和や痛みの悪循環に関わっていますが、慢性的な痛みが続く慢性疼痛は痛みの捉え方を変える必要があります。慢性的な痛みは身体が感じる「痛覚」だけでなく、心理的な苦悩も関わっているのが特徴です。「痛みで何もできない」「なぜ自分だけが」といった破局的な考えや不安、憂うつな気分が痛みをさらに強く感じさせることがあります。11)

身体の痛みと心理的な苦悩は互いに密接に絡みあっており、片方のケアを怠るともう片方に悪影響を及ぼします。慢性化するにつれて心理的な苦悩が増していくため、慢性疼痛の痛みを軽減するには身体的な痛みへの対処と心理的なケアの両方をバランスよく行うことが重要です。11)

慢性疼痛の運動療法ガイド:https://www.moriseikei.or.jp/blog/exercise_guide/

治らない痛みは自律神経を整えるケアと医療機関での相談を

交感神経の過活動は血流低下や痛みの閾値の低下などを引き起こし、痛みを悪化させます。一方、副交感神経は血流の改善や痛みへの感受性を低下させ、痛みを軽減します。慢性的な痛みを改善するには、運動やリラクセ―ション法などの自律神経のバランスを整える対策を取りましょう。

慢性的な痛みのアプローチ法として、痛みの捉え方を変えて生活の質向上をめざす認知行動療法なども知られています。慢性疼痛は複数の要因が複雑に絡み合っているため、心理的なケアや運動療法などの複合的なアプローチが大切です。慢性疼痛を専門的に診る外来のある医療機関で相談しましょう。

治らない痛み(慢性疼痛)に対する専門的なリハビリと心理療法:https://www.moriseikei.or.jp/pain-specialist/

執筆者

作業療法士 丹野 愛

監修者

参考

1)IASP IASP Announces Revised Definition of Pain
https://www.iasp-pain.org/publications/iasp-news/iasp-announces-revised-definition-of-pain/?ItemNumber=10475
2)日本ペインクリニック学会 痛みの機序と分類
https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_bunrui.html
3)安野広三 痛覚変調性疼痛の背景にあるメカニズムとその臨床的特徴についての検討 Jpn J Psychosom Med 2024.64:415-419
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpm/64/5/64_64.5_415/_pdf/-char/ja
4)Doruk Arslan,Işın Ünal Çevik Interactions between the painful disorders and the autonomic nervous system Agri.2022;34(3):155-165
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35792695/
5)辻井洋一郎ら 腰 ・殿部筋から生じる関連痛領域に存在した筋硬結 理学療法学 1993 20(6):383-386
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/20/6/20_KJ00003128113/_pdf/-char/ja?utm_source=chatgpt.com
6)日本ペインクリニック学会 ペインクリニックで扱う疾患と治療の現在
https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_kekkou.html
7)小川 龍 疼痛の発生機序─交感神経の役割─ 日本腰痛会誌2001,7(1):10 –18
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yotsu/7/1/7_1_10/_pdf
8))Kara E Hannibal,Mark D Bishop Chronic Stress, Cortisol Dysfunction, and Pain: A Psychoneuroendocrine Rationale for Stress Management in Pain Rehabilitation Phys Ther. 2014 ;94(12):1816–1825
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4263906/
9)厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』eJIM リラクゼーション法
https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/overseas/c02/11.html
10)富岡 光直 リラクセーション法 心身医学2017,57 (10):1025-1031
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpm/57/10/57_1025/_pdf
11)慢性疼痛の認知行動療法プログラム千葉大学大学院医学研究院 難治性疾患等を対象とする持続可能で効率的な医療の提供を実現するための医療経済評価の手法に関する研究(H29-難治等(難)-一般-062 )
https://www.cocoro.chiba-u.jp/pain/program.html