【医師監修】ぎっくり腰になったらどうすればいい?対処法を解説
執筆者 理学療法士 宇都宮雅人
監修者 整形外科医 森裕展
「ぎっくり腰になってしまった…。どう対処すればいいのかわからない…。」
と不安に思っているあなたへ。
この記事では、ぎっくり腰の原因や対処法やストレッチについてお伝えします。
また、整形外科の現場で実際に見聞きした意外な注意点も最後に紹介します。
ぎっくり腰になったら?対処法フローチャート

①本当に「ぎっくり腰」かどうかをチェック
いわゆる「ぎっくり腰」とは、急に起こる強い腰の痛み(急性腰痛)のことを指します。
重いものを持ったり、急に体をひねったりした拍子に起こることが多いですが、原因は筋肉・靭帯・椎間板などさまざまです。
まず、以下のような症状がある場合は、無理に仕事に行かず、整形外科を受診してください。
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・腰から足にかけてしびれがある
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・下肢を触ったりした時の感覚が分かりにくい
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・または力が入りにくい
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・排尿・排便の感覚がわかりにくい
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・歩けないほどの痛みがある
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・痛みが長引いている
これらの症状がある場合は、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの可能性もあります。今回紹介する対処法やストレッチは、「強いしびれはないけれど、腰が痛くて動くのが怖い…」という方を対象としています。
②痛みが強い時(発症直後)の過ごし方
ぎっくり腰の初期は、腰まわりの筋肉や関節、靭帯に負担がかかっている状態です。
痛みが強い間は無理に動かさず、できる範囲で体を休めることが大切です。
ただし、長く寝たままの状態が続くと、筋肉がこわばって回復を遅らせる原因にもなります。
体勢を変えるときは、痛みの少ない姿勢を探しながら、少しずつ体を動かす意識を持っておきましょう。
③痛みがマシになってきたら、少しずつ動かしてみましょう
ぎっくり腰を経験すると、「動かすとまた痛くなるのでは…」と不安になり、体を動かすのを避けてしまう方が多いです。
これを”恐怖回避行動”と呼び、実はこれが痛みを長引かせる原因のひとつになることがあります。
そのため、痛みが落ち着いてきたら、できる範囲で少しずつ動くことが大切です。
なぜ動いたほうがいいの?
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・動かすことで血流が良くなり、組織の修復が促される
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・筋肉や関節のこわばりを防ぎ、動きやすさを取り戻せる
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・「動いても大丈夫だった」という体験が、痛みへの不安を和らげる
研究でも、完全に安静を続けるよりも、痛みの範囲で体を動かした方が回復が早いと報告されています(NEJM, 1995/Cochrane Review, 2010)。
軽い動きの例
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短時間の歩行:1〜2分ほど、痛みの出ない範囲で
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姿勢の練習:寝返り・立ち上がりをゆっくり行う
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コルセット:痛みが強い時だけ短時間使用し、軽快すれば外す
軽いストレッチを取り入れる
痛みが強い時期のストレッチは「腰そのもの」よりも、腰とつながる周りの筋肉をゆるめるのがポイントです。
無理をせず、「気持ちいい」と感じる範囲で行ってください。
お尻のストレッチ(大臀筋)
椅子に座り、片足のくるぶしを反対の太ももに乗せます。
背筋を伸ばしたまま、上体を少し前に倒すと、お尻の外側が伸びます。
→ 股関節の動きが良くなり、腰への負担を減らせます。
裏もものストレッチ(ハムストリングス)
椅子に浅く座り、片足を前に伸ばしてつま先を上に向けます。
背筋を伸ばしたまま、体をゆっくり前へ倒しましょう。
→ 腰の筋肉とつながる太もも裏を伸ばすことで、腰のこわばりを軽減できます。
ふくらはぎストレッチ(下腿三頭筋)
壁に手をついて片足を後ろに引き、かかとを床につけたまま体重を前にかけます。
→ ふくらはぎ〜もも裏〜腰までを通る筋膜のつながり(Superficial Back Line)を整え、腰の負担を軽くします。
肩甲骨まわし
背中が硬くなると腰の動きに負担がかかります。
両腕を大きく回す「肩甲骨まわし」で、背中全体をゆるめましょう。
整形外科現場で見かける“意外な注意点”
整形外科の現場でよく見られる「ぎっくり腰中の落とし穴」をご紹介します。
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くしゃみ:くしゃみをするときは瞬間的に全身へ力が入ります。この時の衝撃で痛みが悪化する可能性あり。両手で何かに捕まってから行うと衝撃を減らす事ができます。
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階段:上り下りする際に、平地よりも骨盤の動きが大きくなり、その分腰へ負担がかかります。手すりやスロープを活用しましょう。
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自転車の段差:段差の乗り越え時の衝撃が腰に響くため、速度を落とすか立ち漕ぎで衝撃を逃がしましょう。
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靴紐:前屈みは負担大。靴紐なしの靴や長い靴べらを使いましょう。
まとめ
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・ぎっくり腰は「急に起こる強い腰の痛み(急性腰痛)」のこと
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・痛みが強い間は、無理をせず安静に過ごす
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・長期の安静は回復を遅らせるため、少しずつ動きを再開する
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・「また痛くなるかも」という不安で動かないと、回復が遅れる(恐怖回避行動)
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・痛みが落ち着いたら、短時間の歩行や軽いストレッチを行う
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・ストレッチは「腰」よりも「お尻・もも裏・ふくらはぎ・肩甲骨」を中心に
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・コルセットは一時的に使用し、痛みが減ったら外す
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・日常動作では、前かがみ・重い物・段差・くしゃみ動作に注意
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・靴紐は前屈せず履ける靴や長い靴べらを活用
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・痛みが長引く・しびれが出る場合は早めに整形外科へ
ぎっくり腰は、「安静にしすぎる」と良くありません。
“痛みの範囲で少しずつ動く”ことが、最も早い回復への近道です。
監修者 整形外科医 森裕展

執筆者 理学療法士 宇都宮雅人

参考文献
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日本整形外科学会編
『整形外科疾患の理学療法(改訂第5版)』 文光堂, 2022.
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日本整形外科学会/日本腰痛学会
『腰痛診療ガイドライン 2019(改訂第2版)』
公益財団法人 日本医療機能評価機構 Minds ガイドラインライブラリ
https://minds.jcqhc.or.jp/common/summary/pdf/c00498.pdf
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厚生労働省
『慢性疼痛治療ガイドライン(2018)』
https://www.mhlw.go.jp/content/000350363.pdf
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日本腰痛学会
『外来診療のポイント』
https://www.jslsd.jp/medical/point/
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J-STAGE|リハビリテーション医学
松永篤彦ほか 「腰痛体操と非活動性治療の比較」
リハビリテーション医学 43(10): 661-666 (2006)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrm1963/43/10/43_10_661/_pdf
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J-STAGE|理学療法科学
山本隆司 「EBPTに基づいた腰痛症治療と今後の課題」
理学療法科学 15(1): 9-15 (2010)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ptcse/15/1/15_1_9/_pdf
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日本理学療法士協会
『腰痛を予防して — 理学療法士が伝えたい腰の話 —』
https://www.japanpt.or.jp/about_pt/asset/pdf/handbook03_whole_compressed.pdf
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医道の日本社
トーマス・W・マイヤーズ著(訳:竹井仁)
『アナトミー・トレイン — 徒手運動療法のための筋膜経線 — 第3版』 医道の日本社, 2015.
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